紺碧の海 金色の砂漠
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「妃殿下、少し風が出てまいりました。ヴィラに戻られてはどうでしょう」


それはクロエの声だった。

ビーチパラソルの下、舞はデッキチェアに座り込んだままボンヤリと海を見ていた。


遠浅なのでかなりの位置まで歩いていける。ミシュアル国王と手を繋いで歩いたのが昨日のことのようだ。

彼は『二~三日、或いはもっと早く』舞のもとに戻ってくると約束した。それがもう五日。ひとりでできる遊びはほとんどやった。もう、ひとりには飽き飽きしている。


(なんで迎えにこないのよ……)



シャムスも舞についてセルリアン島に戻ってきていた。

だが、一度折れた心はなかなか回復しないようで、シャムスはベッドから起き上がれずにいる。


『家族のためには、ターヒルさまとの結婚を無効にしてもらい、戻るのが一番だとわかっています。でも、もし旦那さまのお子がお腹にいたら……。私は家族を捨てても、子供を守ります』


ムスリムの掟も、クアルンの常識も知らない舞とは違い、シャムスは王室に仕える家系の人間だ。

ターヒルが冤罪とはいえ反逆罪で裁かれたら、彼の一族は王宮を追われるだろう。シャムスも同様だ。そしてシャムスの一家は、肩身の狭い思いをすることになる。

でも、シャムスとターヒルの結婚が無効なら……。

もし妊娠していたら――それを願ってシャムスは頑張ろうとした。でも、その可能性はないと、昨日判明したのである。


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