紺碧の海 金色の砂漠
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早々に電気の消えた国賓室を王宮二階の窓から見上げつつ、国王レイ・ジョセフ・ウィリアム・アズルは大きなため息を吐いた。


(祈りの間は用意したが……あの様子ならサラートは絨毯一枚で充分だな)


専用の絨毯で時間がくれば祈りを捧げるミシュアルの姿をレイは思い浮かべる。


初めて彼に会ったのは約十年前、アメリカのワシントンだった。

レイは当時二十二歳、スキップでハーバード大学を卒業し、東京大学大学院に籍を置いていた。公的には摂政皇太子であり、実権は国王と変わりない。


一方、ミシュアルは十八歳の大学生。王位継承順位三位の彼がクアルンの国王になることはない、と思われていた。

それどころか、彼は伯父の国王に疎まれており、クアルン王族内で微妙な立場だと知る。アメリカ政府もそれを察し、公賓のミシュアル王子より非公式に訪れていたレイ皇太子との会見を優先させたくらいだ。


レイも当初、ミシュアルに対する態度を決めかねていた。

オペックに加盟を希望するならクアルンとの友好関係は非常に重要だ。ミシュアルと交遊を深めることで、クアルン国王の反感を買ったのでは摂政として失格だろう。

しかもふたりはまるで性格が違った。

当時のレイは国内外の重圧に苦しめられており、自分を律することにかなり苦労していた。あのころのレイにとって、日本人婚約者の存在は重荷にほかならず、可能な限り目を背けていたのだ。


そんなレイにミシュアルは自慢気に言った。


『奇遇だな。私の婚約者も日本人だ。十年後、彼女を妻に迎える日を今から楽しみにしている』


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