紺碧の海 金色の砂漠
ティナの瞳は涙で潤んでいる。キスでごまかせないことを悟り、レイはティナに向き合った。


「ティナ、君の気持ちはわかっているつもりだ。でも、少し子供のことは忘れないか? そんな決死の覚悟で挑むものじゃ……」

「私に魅力を感じなくなったのならそう言って!」


レイの言葉を遮るように彼女は叫んだ。


「ほら、またすぐそんなことを言う。違うと言ってるだろう」

「丸二年を過ぎたのよ。焦って当然だわ。本当なら、ちゃんとした検査だって受けたいのに。あなたが必要ないって言うから……」


この話になるといつもそうだ。ティナはヒステリックに怒りだして、すぐに泣き始める。元々、大らかに見えて神経質な性質だ。そして果敢に、問題解決に邁進しようとする。

二年前はそれで、レイの周囲を引っ掻き回してくれた。しかし、今度ばかりはレイも音を上げそうであった。


「いいかい、ティナ。検査はしない。特別な治療も必要ない。時期がくれば授かるだろうし、万にひとつ、私たちに後継者がいなくても、ソーヤもアーロンもいる。子供がいなくても幸福なカップルは」

「私が欲しいの! レイ、あなたの子供が欲しいのよ。特別な手段で授かるなら、どんなことでもしたいわ。でも、私にできるのはタイミングを計るくらいなの! チャンスは月に一度なのに……。あなたはこの二ヶ月、私を抱こうともしないじゃないっ!」


いつもは黙って聞いている。だがこの日ばかりは、ミシュアルたちの様子にレイ自身も煽られていたのだ。


「クリスティーナ、悪いが……今の君に“種付け”をする気にはならない」


レイの言葉にティナは一言も返さず、執務室を出て行くのだった。


< 44 / 243 >

この作品をシェア

pagetop