紺碧の海 金色の砂漠
「舞踏会がないのが残念ね。マイはとてもダンスが上手そうなのに」


ティナが微笑みながら恐ろしい話題を投げかける。


「と、とんでもありません。なくてホッとしてます」

「そんな謙遜しないで」


謙譲の美徳は舞も持っているつもりだが、こればかりは百パーセント本心だ。


「そんなことより、わたしのせいで踊れなくなってしまって。ティナも楽しみにしてたんじゃありませんか? レイ陛下とのダンス見てみたかったなぁ……なんて」


ちょっと冗談めかして言ったのだが、どうやらティナの耳には届いてないらしい。

じっと見ていると、“白トリュフを散らした舌平目のソテー”も“牛フィレ肉のステーキ”も“ブロッコリーのクリームスープ”すら半分も口にしてはいなかった。


「あの……ティナ? 具合でも悪いの?」


小さな声で話しかけるが、ティナは顔を真っ直ぐ前に向けたまま、虚ろな瞳をしていた。


「ティナ? ティーナ?」

「あ……ごめんなさい。お食事は口に合うかしら? えっと……今日のメインは何だったかしら」


メインのステーキを食べたあとでそんなことを口にしている。


「えっと、多分、次は“チョコレートムースのバニラアイス添え”だったんじゃないかなーと」

「あ、ああ、そうね。メインはもう頂いたわね」


そう言って口元だけ微笑むと、今度は視線を下に向け、ジッと水の入ったグラスを見つめるティナであった。 


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