紺碧の海 金色の砂漠
舞が少しでもアバヤを忘れてホテルの廊下に出たものなら、


『王妃たるものがっ!』


と、目を剥いて怒鳴る。


舞にすれば、厄介な奴がついてきたな、というのが本音だ。

今回、ターヒルはシャムスとの結婚式を終え、クアルンに残ったままだし、ヤイーシュはまだ日本に仕事があるとかで東京に残った。


お年寄りは大事にしよう、と教育された舞である。

お爺さんと呼ぶような年齢のダーウードに文句は言い難い。というより、彼は頑なに外国語を否定し、アラビア語しか話さない。そのため、今の舞のアラビア語スキルでは話にならないのである。

立派な白い髭をたくわえたダーウードには、ミシュアル国王も苦手意識を持っているようだ。命令にいつもの威圧感がなく、どこか弱腰である。


舞は再び窓から下を見ようとするが……。

アームレストの影でミシュアル国王が舞の手を握った。五本の指をしっかりと絡め、ちょっと“イケナイコト”をしている気分になる。


「……お楽しみは着いてからだ」


キラッと光った瞳の輝きに、ビーチサイドでの色々を想像して頬が緩みそうになる舞だった。


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