紺碧の海 金色の砂漠
「アーイシャ殿下。新婚さんとはいえ、同じ一般人から王妃になられたあなたの言葉なら、ティナも耳を貸しそうな気がするの。あんまりレイを追い込まないように、ティナに言ってあげて欲しいのよ」

「お、追い込む?」

「そう、レイは表に出さないからわかり難いんだけど……。プレッシャーを感じてるのは彼も同じだから。レイにはティナしかいないの。それを彼女に思い出して欲しくて」


どことなく頑張っているティナとは違い、アンナはごく自然に王宮の似合う女性だった。



「――アーイシャ。ここに居たのか」


舞が返事を迷っていると、背後からミシュアル国王の声が聞こえた。アンナは一歩下がると、さらに右足を引き、腰を落とす。


「アンナ・クリスティーヌ・サトウと申します。御目に掛かれまして、光栄に存じ上げます」

「ああ、レイ国王の従姉殿か。頭を上げるがよい。……子がいるようだな。何ヶ月だ?」

「五ヶ月目に入りました」

「丈夫な子を産むように――アッラーフ・ヤハミーキ《そなたにアッラーのご加護を》」


アンナは『シュクラン・ジャズィーラン《感謝申し上げます》』とアラビア語で答え、舞に小さく目配せして下がっていった。

舞はさっき言われたことを思い返し、ボンヤリと彼女の後姿を見つめる。

「どうした? 何か言われたのか?」


何を勘違いしたのかミシュアル国王の声が険しくなった。

舞は慌ててアンナの言葉を伝える。特に誰の悪口でもないし、レイ国王とミシュアル国王は仲が良さそうだ。ひょっとしたら何か力になってくれるかもしれない。

そう思った舞に彼が言った言葉は――。


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