紺碧の海 金色の砂漠
「そんな……シーク・ミシュアルの仰る通りだわ。私たちのせいで夫婦喧嘩なんて駄目よ。今夜はちゃんと謝って、仲良くしてちょうだい。ね、マイ」


――男って本当に無神経。なんでちょっと気遣ってくれることができないの。馬鹿みたいにプライドとか面子ばっかり気にして!


医療施設を視察した後、アジュール島内にある離宮・瑠璃《ラピスラズリ》宮殿に二人は入った。

舞は彼女を元気付けようとするあまり、ついつい悪態が口に出る。すると、逆にティナの方が心配して、舞を宥め始めたのだった。


「あなたの気持ちは嬉しいわ。でも、王妃としての役目を果たしていない私が悪いのだから……」


ティナは一般人だったとはいえ、舞のような庶民ではない。ニューヨークの五番街に大邸宅を持つ、富豪の娘なのだ。だが家族仲は、というと……。結婚から二年、ティナが実家に戻ったのは国賓としてアメリカを訪れた一度だけだった。

もし舞なら最悪の場合、月瀬の両親の元に逃げ帰っても追い返されることはないだろう……多分。

だが、ティナには帰る場所がない、という。


「去年、帰った時も……お前は子供の一人も産めないのかって、父に叱られたわ。焦っては駄目だというレイの言葉もよくわかるの。でも、周囲が私のせいだっていう目で見るのに、何もせずには居られないのよ」

「検査とか、受けたんですか?」


舞は慎重に尋ねる。

ティナもそれに気付いたのか、舞に向かって柔らかく微笑み、首を振った。


「いいえ。レイが必要ない、って」
 

――ティナはまだ二十六歳。焦るような年齢ではない。事情があるにせよ、ないにせよ、健康に問題がないなら特別な検査は不要だ。生殖能力の有無は愛情の重さに比例しないのだから……。


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