紺碧の海 金色の砂漠

(16)世界中の誰よりも

(16)世界中の誰よりも



背後から襲い掛かった水に、からめ捕られた感じだった。

声を上げる間もなく、ティナは流されたのだ。海に落ちたことはあっても、流されたことはない。はたと気付いた時には、小型クルーザーを係留した桟橋の辺りまで流されていた。


(ここを越えたら海に落ちてしまう。なんとしても踏み止まらないと……)


ティナは手を伸ばし、桟橋の手すりに必死で掴まる。

スコールの中、海に叩き込まれて、泳いで戻って来れるほどティナは泳ぎが得意ではなかった。せっかく常夏の国にいるのだから、とレイに連れられ何度もこの入り江で泳いだが……。

結局、ティナの運動能力がそれほど高くない、と証明しただけだった。


(レイはなんでもできるのに。私は……)


そんなことを考え始めると落ち込むばかりだ。

ティナにとってレイは、掛け値なしの王子様であった。父という魔王の呪いから解き放ってくれた英雄と言うべきか。

それにレイは、国民からはもちろん、諸外国においても、身近な王宮スタッフからも慕われている。そんな素晴らしい国王の王妃として、この二年間、ティナはただ隣に立っていることしかできなかった。


チカコの言うとおり、レイは子供が大好きだ。兄弟はすべて母親違いで、彼は家族らしい家族を知らない。

なんの取り得もないティナにできること、それは一日も早くレイに家族を作ってあげることだけ……。


(それだけ、だったのに)


胸に熱いものが込み上げ――意識が違うことに向いた瞬間、ティナの手は手すりから離れていた!


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