紺碧の海 金色の砂漠
だが、レイは伝えたという。そう言われたら、最初の数回『駄目だな、疲れているらしい』『今日は無理みたいだ』そんな言葉を口にしていた。

ティナは自分のことに必死で、レイの表情をちゃんと見ていなかったことに気付く。

きっと今と同じように、アズルブルーの瞳が悲しみに沈んでいたはずなのに。


「ごめん……なさい。最低だわ、自分のことしか見えてなかったの……」

「いや、君に伝わってないことはすぐにわかったんだ。何が駄目なのかハッキリ言えばよかったんだが……私にも男の見栄があって言葉にはできなかった」


女性より男性のほうが繊細だと聞いたことがある。

ティナは自分が不幸だと嘆くあまり、思いやりの心を忘れてしまっていたのだ。


「この間もそうだ。シーク・ミシュアルは何においても自信に満ち溢れている。彼ならこんな情けないことには……そう思うと、“種付け”なんて酷い言葉で君を傷つけた。悪かった……私を許してくれるかい?」


もう、謝る言葉すら口に出て来ない。

ティナは黙ってうなずくだけだった。


レイが不妊検査を拒んだ理由もティナの為であった。

彼は自分がアズル王室唯一の王子となったとき、生殖能力を確認するためひと通りの検査を受けていた。当時、庶子に王位継承は認められておらず、万一のときは法改正が必要となるからだ。

そして、自分には問題がないと知りながら、彼は一言も口にしなかった。

軽い不妊治療で済むような問題であればいいが……そうでなければ、ティナが離れて行くことが怖かった、とレイは言う。


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