か・せ・こ・く・い
「侑香里には…忘れられない人とか居る?」
「えっ?いきなりなに?」
「いや…ただ思っただけだけど…聞いちゃマズい?」
「ううん」
私は豊に彼とのことを全部話した。
豊は全部のことを受け止めてくれて…。
今までこんなに優しくされたことはなかった。
「そうかぁ…名前覚え出せればいいなぁ」
「だね…」
「俺が思い出させてあげようか?」
「えっ!?」
「冗談だよ。でも、本当にそんなこと出来たらいいなぁ」
「うん…」
それから私と豊は色んなことを話し、アドレス交換もした。
なんか一日ですごい仲良くなった。
なんで今まで豊という存在に気付かなかったんだろう…。
こんなに自分のことを受け止めてくれる人は彼以来だ。



「そろそろ授業終わるし、帰るか」
「うん」
「なぁ、侑香里ってテニス部だったよな?」
「なんでそれを…?」
「俺野球部だからずっと見てた。あぁでも勘違いすんなよ?ストーカーとかそういうんじゃないぞ?」
「分かってるよ」
私は驚いた。
豊はずっと私のこと見てたなんて…。
私は豊の存在に気付いてなかった…。
なんか悔しい。
「あのさぁ…」
「うん?」
「今日…」
「今日?」

「一緒に帰らねぇ?」

「えっ?」
「ダメかぁ?」
「いや…いいよ」
「じゃあ部活終わったら野球部の部室に来て」
「うん」
私は豊と一緒に教室に戻った。
…。
こんなドキドキは初めてだ。
今まで何人か付き合ってきたし、色んな経験もしてきた。
一緒に帰るだけのこと。
それなのに…。
それだけなのになぜかドキドキする。
私の中で豊の存在がゆっくりゆっくり大きくなっていくのを感じた。
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