か・せ・こ・く・い
「先輩、離してください」
「イヤだね」
雄大先輩は抱きしめる力を強める。
「いい加減にしてください」
「いいじゃんか」
雄大先輩は私の顎に持ち、顔を近づける。
キスされる…。
私の本能はそう感じた。
目を閉じ、肩をすくめ、キスを拒んだ。
でも雄大先輩は避けるたびに顔を近づける。
もうダメかぁ…。
私が諦めようとした時…
―バチン、ドタッ。
「えっ?」
私が目を開けると目の前に雄大先輩が口から血を流し、倒れていた。
横を向くと息が荒い豊が立っていた。
握った拳には雄大先輩の血が。
なにが起きたのか分からない私はただただ現場を見守るだけだった。
「先輩、俺の女に手を出したらこうなるんですよ?」
雄大先輩は動かない。
豊は私の目の前に立ち、抱きしめた。
「大丈夫だったか?」
「うん…」
「ごめんな?」
「豊は悪くないよ?」
豊の優しさ。
その優しさに頼っていいのか?
そう思った私は『豊は悪くないよ?』と言った。
本当は頼りたかった。
怖かった。
一生そばにいて、って。
でも、そんなこと言ってしまうと豊に負担がかかる。
私は諦めた。
豊を傷つけたくなかった。
「帰るか?」
「うん…」
私が返事をすると豊は私を離した。
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