龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】
「でもね、救急は嫌なの。わたしより、もっと具合の悪い人がいるかもしれないでしょ? わたしのせいで、その人の診察が遅れたら困る」


「分かった、分かった。普通の外来で受付するから。それならいいんだろ?」


わたしはコクンと頷いた。


「じゃあ、優月、大事にしろよ」


頭の上で、圭吾さんの声がする。


「ありがとう。志鶴さんもお大事にね」


わたしは顔を上げずに『はい』って答えた。


きちんと挨拶もできないなんて、まるで駄々っ子だ。

圭吾さんも呆れたかも。


「取りあえず座って」

圭吾さんはわたしを近くの椅子に座らせると、しゃがんでわたしの顔を覗き込んだ。

「痛い?」


「痛くなってきた」


痛くて泣いてると思ってほしい。


「ちょっと待ってて。受付して来るからね」


優しい指が、わたしの涙を拭った。


わたしは、後ろめたい気持ちで頷いた。

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