龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】
待って……最初に桜の匂いがして、お婆さんに会ったよね。

バスから降りようとして転んだ時も、桜の匂いがしてた。

助け起こしてくれたのは中年の女性だった。

あの時、女の人は、わたしの膝の血をハンカチで押さえてくれたっけ。

綺麗な桜色のハンカチ。

ほのかな桜の香り。

そして、今日――


体が震えそうになって、膝の上でギュッと両手を握りしめた。


大丈夫。怖くない。

圭吾さんの近くに『あれ』は来ない。

だって、家では匂いがしないもの。

しっかりしなきゃ。

羽竜家にいれば、不思議な事が身の回りで起こるのは日常茶飯事なんだから、いちいち怖がっちゃダメ。


「志鶴?」


圭吾さんの声に、わたしは目を上げた。


「家に着いたよ」


「もう?」


圭吾さんはふふっと笑った。


「ぼんやりしてたね。どうした?」

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