龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】
まるで子馬が生まれるように、悟くんの体がスルッと床の上に落ちた。
悟くんは身動き一つしない。
要さんは、悟くんの顔を覗き込んだ。
「くそっ! 息をしてない!」
悲鳴が漏れそうになって、わたしは片手で口元を押さえた。
要さんは、悟くんを俯せにして顔を横に向けさせると、背中を押しはじめた。
そのまわりで緑色のモノがうごめいて集まり、形を作ろうとしていた。
圭吾さんがもう一度手を打ち鳴らす。
「散れ」
緑色のモノは細かい飛沫となって周囲に飛び散った。
「悟! 戻って来い!」
要さんは、悟くんの背中を押し続けながら叫んだ。
「イツキ! 聞こえるか、イツキ?! お前の時はもうすぐ終わる。あの娘(こ)の光を集めても、こいつの命を飲み込んでも、お前が若返る事はない!」
岩の裂け目から風が吹きすさぶような音がする。
「辛いよな。悲しいよな。でも、どんな生命もいつか終りの時を迎えるんだ。イツキ、お前は綺麗だったよ。毎年毎年、春が来る度に満開のお前に見とれたよ。お願いだ、俺の中のお前の記憶を汚さないでくれ。俺の――俺の弟を連れて行かないでくれ!」
悟くんは身動き一つしない。
要さんは、悟くんの顔を覗き込んだ。
「くそっ! 息をしてない!」
悲鳴が漏れそうになって、わたしは片手で口元を押さえた。
要さんは、悟くんを俯せにして顔を横に向けさせると、背中を押しはじめた。
そのまわりで緑色のモノがうごめいて集まり、形を作ろうとしていた。
圭吾さんがもう一度手を打ち鳴らす。
「散れ」
緑色のモノは細かい飛沫となって周囲に飛び散った。
「悟! 戻って来い!」
要さんは、悟くんの背中を押し続けながら叫んだ。
「イツキ! 聞こえるか、イツキ?! お前の時はもうすぐ終わる。あの娘(こ)の光を集めても、こいつの命を飲み込んでも、お前が若返る事はない!」
岩の裂け目から風が吹きすさぶような音がする。
「辛いよな。悲しいよな。でも、どんな生命もいつか終りの時を迎えるんだ。イツキ、お前は綺麗だったよ。毎年毎年、春が来る度に満開のお前に見とれたよ。お願いだ、俺の中のお前の記憶を汚さないでくれ。俺の――俺の弟を連れて行かないでくれ!」