龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】

「全く、酔狂なもんだね」

白衣姿の松子さんが腰に手をあてて、葉もまばらな一本桜を見上げて言った。

「花のない桜で花見だなんて」


「でも、楽しそうじゃん」

養女のアイちゃんが、松子さんの隣で同じように桜を見上げた。

「あたし花見すんの初めて」


「わたしも初めてだよ。ワクワクするね」

わたしがそう言うと、地面にシートとブランケットを敷いていた男性陣が、一斉にわたしを見た。


何?


「嘘だろ……花見も初めて?」


圭吾さんが、こめかみを押さえた。

すると、お皿とコップの入った箱を覗き込んでいた彩名さんが顔を上げた。


「あら、何でも圭吾とするのが初めてだなんてステキじゃなくて?」


「だ·ま·れ、彩名」


「花見にはいくつかルールがある」

分家の巧さんが言った。

「テレビで見たことない? 男は必ずネクタイを頭に巻くんだ」


頷いてるけどアイちゃん、それ嘘だから。

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