龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】
こっちを見ようともしないのは、今の話を気にしてる証拠だと思う。


圭吾さんが巧さんに何事か耳打ちした。

巧さんが頷く。


「美幸、お前、こっちの運んで」

巧さんが当たり前のように言って、自分の足元を指差した。


「えっ? どれ?」

美幸は車を回り込んで、巧さんの側に行った。


「これ? あっちに持ってくの?」

「ああ。ついて来て」


ポリタンクを片手に持った巧さんの後ろを、どう見ても軽いであろうバスケットを持った美幸がついて行く。

多分、巧さん一人でも持てるよね。


二人の後ろ姿を見ながら、司先生が顔をしかめた。

「悟、趣味が悪いな」


「ああでも言わなきゃ、巧兄貴は行動を起こさないだろ? なぁ、大野?」


「言っとくけど、わたしは賛成してる訳じゃないわよ」


「姑ババァみたいな事、言うなよ」


亜由美は腕を組んで、凍りつきそうな目で悟くんを見た。


「美幸が笑う顔が見たいわ。それだけよ」

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