龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】
それから、司先生が両手を一拍打ち鳴らして、口を開いた。

「百年(ももとせ)なる咲良(さくら)の比女より、綿津見なる竜城(たつき)の御神(おんかみ)へ願い奉る」


要さんが、アイちゃんの持つ升の中に桜の命のかけら達を入れて、言葉を継ぐ。

「今一度(いまひとたび)の春を纏(まと)わん事を、我が玉の緒を納め、伏して願い奉る」


圭吾さんがアイちゃんから升を受け取った。


「言祝(ことほ)ぎ、言祝げ」

圭吾さんが升の中の灰を撒きながら言う。

「今一度の花を咲かせん」


圭吾さんは逆手で升を持ち直すと、左から右へと大きく腕を払った。

升の中の灰が弧を描いて宙に散る。


「咲け」


言葉が空気を震わせた。


――ああ、花が


桜の花びらが舞い、枯れかけた枝に満開の花が咲いた。


願いの花が

命と引き換えの最後の花が


きれい……

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