龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】
ああ、もう行かなきゃ

親父もこんな気持ちで、わたしを置いて仕事に行ったのかな……


「僕には行ってきますの挨拶は無し?」


圭吾さんが、全然拗ねていない口調で、拗ねた台詞を言う。


もうっ!


「いってきます」

わたしは、わざと音を立てて圭吾さんの頬にキスをした。


「いってらっしゃい」

圭吾さんが微かな笑みを浮かべる。


「ニヤケていてよ」

圭吾さんの向かい側に座っていた、お姉さんの彩名さんが冷やかした。


「黙れ、彩名」

圭吾さんが唸るように言った。


わたしがクスッと笑うと、圭吾さんがしかめっ面をした。



外はいいお天気だった。


門を出た途端、強い風がザアッと吹いた。

風に乗って桜の匂いがする。

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