龍とわたしと裏庭で⑥【高3新学期編】
「そう? じゃあ近場で。混んでもたかが知れているから」


近場で? わたしは何がしたい?


ふっと深い穴に落ちて行くような感じがした。


「志鶴?」


「ごめんなさい。どこも行きたくない。ダメ?」


圭吾さんは一瞬沈黙してから、わたしからコーヒーカップを取り上げた。


「もうちょっとこっちへおいで」


気がついた時には、圭吾さんの脚の上で小さな子供のように、向かい合わせに抱っこされていた。


圭吾さんの手がわたしの背中を撫でた。


わたしは黙って圭吾さんの肩に頭を預けた。


「嫌なら家にいよう」

「ホント?」

「うん」

「ごめんなさい。わたし、変」

「変じゃないよ。気にしなくてもいい。分かるから」


分かるの?

自分でも、どうしたのか分からないのに?

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