八神姫
八神姫
「この愚か者」
御簾の中から苦々しげにそう言っている男。そんな彼の目には、かしこまって頭を垂れている女の姿が映っていた。
「このような失態をさらして、よく、おめおめと帰ってくることができたものだな」
「殿、申し訳ありません」
頭を垂れ、平伏している女の口から微かに詫びをいれる声が聞こえている。しかし、その姿勢にはどこかぎこちなさもいえるような感じがしないでもない。何かを必死でこらえているようにもみえる姿。そんな女の様子にばさっと御簾を跳ね上げ近寄った男は、うなだれた細いうなじを力まかせに引き上げていた。
「何をすればいいのかはわかっているのだろう。いつまでもここにいても埒があくわけではなし。お前ができることをやってくるのだな」
「殿様、そのようにおっしゃられずとも。姫も十分にそのことはご承知でございます」
自分の前にいるものではなく、その後ろに控えているものがそのようにいったことに、男は気分を害したようだった。自分が答えを求めているのはお前ではない、というような冷ややかな視線をその相手に向けている。
「殿、必ず、取り戻してまいります。それゆえ、しばし、お時間をいただけませんでしょうか」
「良くぞ言った。では、吉報をまっているからな。だが、時間もあまりないぞ。そのことは忘れるでない」
そういうなり、男は相手のことなど忘れたかのようにその場を後にしている。残された女はようやくほっとしたかのような表情を浮かべているが、その額には脂汗が浮かんでいる。
「姫、お加減がまだよろしくないのではございませんか」
心配したような声で、自分に近寄ってくる相手をねめつけるような目で女は見据えている。彼女の具合がどこか悪いのは間違いがないことだろう。どんどんと顔色が悪くなり、ますます額の脂汗も酷くなっている。
「心配することはない。それよりも、例のものはどこにいるのか調べてきてあるだろうね」
「それは、仰せのとおりに。しかし、そのお体でお出かけになられるのですか。無茶というものです」
「殿があのように仰せなのです。急がなくてはなりません。何よりも、アレが主上の目に触れることがあってはなりません」
御簾の中から苦々しげにそう言っている男。そんな彼の目には、かしこまって頭を垂れている女の姿が映っていた。
「このような失態をさらして、よく、おめおめと帰ってくることができたものだな」
「殿、申し訳ありません」
頭を垂れ、平伏している女の口から微かに詫びをいれる声が聞こえている。しかし、その姿勢にはどこかぎこちなさもいえるような感じがしないでもない。何かを必死でこらえているようにもみえる姿。そんな女の様子にばさっと御簾を跳ね上げ近寄った男は、うなだれた細いうなじを力まかせに引き上げていた。
「何をすればいいのかはわかっているのだろう。いつまでもここにいても埒があくわけではなし。お前ができることをやってくるのだな」
「殿様、そのようにおっしゃられずとも。姫も十分にそのことはご承知でございます」
自分の前にいるものではなく、その後ろに控えているものがそのようにいったことに、男は気分を害したようだった。自分が答えを求めているのはお前ではない、というような冷ややかな視線をその相手に向けている。
「殿、必ず、取り戻してまいります。それゆえ、しばし、お時間をいただけませんでしょうか」
「良くぞ言った。では、吉報をまっているからな。だが、時間もあまりないぞ。そのことは忘れるでない」
そういうなり、男は相手のことなど忘れたかのようにその場を後にしている。残された女はようやくほっとしたかのような表情を浮かべているが、その額には脂汗が浮かんでいる。
「姫、お加減がまだよろしくないのではございませんか」
心配したような声で、自分に近寄ってくる相手をねめつけるような目で女は見据えている。彼女の具合がどこか悪いのは間違いがないことだろう。どんどんと顔色が悪くなり、ますます額の脂汗も酷くなっている。
「心配することはない。それよりも、例のものはどこにいるのか調べてきてあるだろうね」
「それは、仰せのとおりに。しかし、そのお体でお出かけになられるのですか。無茶というものです」
「殿があのように仰せなのです。急がなくてはなりません。何よりも、アレが主上の目に触れることがあってはなりません」
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