雨が見ていた~Painful love~
「ごめん…なさい…。」
誠意を込めて
ペコリと彼に謝ると
「フン。
わかったらこれからは適当な仕事すんなよ?」
そう言って忌々しそうに私を睨みつけると、キョウちゃんは
「どうだ、お前ら~!!
俺様、やっぱすげーだろー!!」
「うっひゃー!やっぱサイコーっす!響弥さん~っ!!」
仲間たちの待つ、プールサイドへとテケテケと走って行った。
無邪気に笑って
仲間たちと笑いあっている。
年下に同い年に
年上のコーチたち
不思議とキョウちゃんの周りには沢山の人が集まって、キョウちゃんの記録を喜び合っている。
さっきの鬼の形相とは打って変わった、彼の無邪気な顔を見つめていると
「すいません、桐谷さん。アイツのワガママを受け止めてくれて感謝してます。」
ふふふ、と笑いながら郷田先生が私に話しかける。
「……え?」
「不思議ですよね。響弥は自分にも他人にも厳しい奴だけど、不思議とアイツはみんなから慕われている。」
嬉しそうに郷田先生はキョウちゃんを指さす。
その指の先には水泳部の皆様に胴上げされている、キョウちゃんの姿があった。
「アイツは誰よりもストイックな奴だから、桐谷さんも大変だと思います。ワガママばかり言っているから申し訳ない気持ちでいっぱいです。だけどね?アイツはただ勝ちたいだけなんですよ。」
その言葉に
「どういうことですか?」
と、問いかけると
「アイツは自分に勝ちたいそうです。
他人よりも記録よりも、一番勝ちたいと思っているのは自分だ、と言いました。」
「自分?」
「そう。勝つべきは自分だそうです。」
誇らしそうに郷田先生は笑う。