雨が見ていた~Painful love~


怒りに身を任せたまんま、ツカツカと足を前に進めプールへと続く扉をガラリと開けると、私の目の前には必死な形相をして泳ぐ、藤堂響弥の姿があった。



だけど…………



「…キョウちゃん……??!」



そこにあったのは
苦しそうに
もがいているように
必死に体を動かしているだけの彼の姿


まるで小学生の頃に戻ったかのような、全てがバラバラで酷くチグハグな感じすら受ける、不安定なフォーム



「嘘でしょ……??」



そんな姿を目の当たりにして、私は思わず絶句する。




――なんで?!どうして?!




理由は全くわからない。
理論も論理も競泳に関しては素人の私だけれど、この前見た彼の泳ぎとは全く違うということだけはハッキリとわかる。



体が……、全く前に進んでいない。




どんなに水をかいても進まない、キョウちゃんの体


普段の彼は水と一体になった生き物のように、まるで水のなかを優雅に泳ぐイルカのように、1かきするだけでスルリスルリと驚くほど体が前に進んでいくのに……、今の彼はただの人。



慣れない水のなかを必死に泳ぐ、ただの凡人




非凡な才能を持つトップアスリートとしての彼の輝きなんて……どこにもない。





――どうして……。
どうしてこんなことになっているの??






彼の泳ぎを目の当たりにして
私はまばたきはおろか、呼吸すら上手くできずに、私はただ戸惑うばかり。


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