雨が見ていた~Painful love~
その問いかけに
「見損なったりしない。
キョウちゃんが一生懸命やった結果なら…。
その結果を笑ったり、バカにしたりするはずないでしょう?」
私はキッパリとそう言い切る。
「勝つことより、負けることより、キョウちゃんが全力を出さないレースのほうが嫌だ。
そんなレースをしたら…心底見損なうかもしれないけどね。」
少し自信なさげな彼の背中に
そうエールを送ると、キョウちゃんは吹っ切れたようにククッと笑って
「だよな。
俺も…そう思う。」
そう言って、重く暗い扉をギィッと開けた。
そして、左手のこぶしをギュッと握りしめると
「霧は……完全に晴れた。
見てろよ、美織。
俺は絶対に勝って見せる。」
振り返らずに
でも自信たっぷりのいつもの声で、キョウちゃんは私にそう宣言する。
――よかった。
いつものキョウちゃんが戻ってきた。
強い強い、トップアスリートのキョウちゃんが帰ってきた。
再浮上した悪魔の様子に安心した私が
「うん。
吉良光太郎なんてギッタンギッタンにやっつけちゃっていいよ。」
そうおどけると、キョウちゃんは『ばーーか!』と大きな声で私を罵って
「俺が勝負してんのはいつだって自分なんだよ。吉良なんて関係ねぇ。俺の最大のライバルはいつだって自分自身だ。」
そんなかっこいい一言を残したまんま、
一度もこちらは振り返らずに後ろ手でバイバイしながら、彼は彼の戦場へと戻っていった。