雨が見ていた~Painful love~
頭の奥ではわかってる。
今は握手をするべきだ、って。
でも‥でも‥
その手を見ると否が応にも思い出す。
忘れられない、忌まわしい
あの雨の夜を思い出す。
あの雨の夜、カレはひどいやり方で私を傷つけた。今まで築き上げてきた信頼、それらすべては彼によって壊された。
それが許せなくて、それが悲しくて、私はありえないくらいひどい言葉で彼を傷つけた。
私と同じ苦しみを味わえばいい。
子どもだった私はそんなひどい感情に駆られて、彼をなじった。
そんな私に
『じゃあ、もうサヨナラだ。』
彼は怒りと悲しみを含んだ目をして、言ったんだ。
カレの言ったサヨナラは“金輪際、オマエとは関わりは持たない”と言ったのと同義語だった。
“じゃぁ、もうサヨナラだ”
その言葉通り、誰よりも近くにいたはずのカレは‥‥私の人生に1ミリも関わってくれなくなった。
最初からカレが存在しないような。
いつも傍らにいたことが全てウソだったかのように、カレは私の人生から一歩どころか、何千歩、何万歩も退いてしまったんだ。
あの日、あの夜、ヒドイ言葉で、ありえない言葉でカレを酷く傷つけて、全てなかったことにして過ごしてきた私。
差し出された手を取って、何もなかったかのような顔がしたい。でも‥‥怖い。彼に触れることが、何より誰より恐ろしい。
急かす綾音の声も耳に届かず、1人でモンモンと悩んでいると
「オイ。」
「‥え??」
「何なんだよオマエ。」
「‥え??」
「人が手を差し出してんのに、その態度。‥アンタの人格疑うね。」
カレは侮蔑した瞳で私を見下す。