雨が見ていた~Painful love~
拓真くんは私の後ろの席をチョイチョイと指さすと
「ここ…空いてる??」
と、尋ねる。
「うん。朝からはずっと空いてるから大丈夫だとは思うけど…。」
自信なさげにそう答えると
「そっか。俺関係者席に自分の席あるけど…
響弥のレースだけはここで見る。」
そう言って、拓真くんは相変わらずの仏頂面のまんまドッカリと席に座った。
「あ、日野さん。
お疲れ様です。」
「あぁ、喜多川さん。
お疲れ様です。」
喜多川君は拓真くんに首だけ向けるとぺこりと挨拶をして、拓真くんもそれに倣(ナラ)う。
――アレ??この二人、知り合いだっけ??
そんなことを思いながら首を捻ると
「キラの担当だから…、知り合い。」
拓真くんは言葉少なに自分と喜多川君を指さす。
その言葉に私は“あっ!”と気づく。
そうか!
喜多川君は吉良光太郎の担当だから…SGスイミングスクールにも足しげく通っていたわけで。
二人が顔見知りだったとしても何の不思議もないんだ!!
そんな単純なことに今更気づいて、頭の中でポンと手を叩いていると
「只今より。
男子200M平泳ぎ予選を行います。」
水泳場の中に戦いを告げるアナウンスが響き渡る。
予選は全部で8組
キョウちゃんは予選3組
キラ光太郎は7組に入っている。
いよいよだ…
いよいよ戦いの時が始まる。
言いようのないドキドキ感と苦しさが胸を襲って、いたたまれなくなってギュっっと手のひらを握りしめると
「大丈夫。」
「…え??」
「響弥が予選なんかで敗退するわけない。
アンタは信じて待ってればそれでいい。」
ニコリともせず、何かを確信しているかのように、拓真くんはそうつぶやく。