雨が見ていた~Painful love~
その状況と
拓真くんの言葉を表すように
電光表示板に現れた100Mのキョウちゃんのタイムは1分01秒05
――は、速い!!!
距離が伸びると普通はタイムが落ちるものなのに、キョウちゃんは落ちるどころか50Mとほぼ同じタイムで泳いでいる。
そのタイムが現れるや否や
会場からは
「うおぉぉぉ!!」
「すげぇ!
藤堂、すげぇ~!!」
一際大きな声援が、会場中に飛び交う。
「普通はスタートから50Mが飛び込みもあるし一番イイタイムが出るハズなんだけどな。気違い染みてるアイツは後半になればなるほど速くなる。
競馬でも何でもケツからマクってくる姿に人は歓喜し、興奮する。響弥の泳ぎは…見てる人を芯から熱くさせる泳ぎだな。」
呆れたように
でも感嘆したように
ため息交じりに拓真くんが呟く。
そして
「すっげー!マジで藤堂すっげー!!」
喜多川君もキョウちゃんの泳ぎに興奮している。
だけど……
私は大きな声で応援することも、興奮することもなく、ただ信じられない気持ちで彼の泳ぎを見つめていたんだ。
見ているようで
見ていないような
空を見るような空虚な瞳
そんな瞳で見つめる先には誰よりも速く、誰よりも美しく泳ぐキョウちゃんの姿があった。