雨が見ていた~Painful love~
もしかしてアレは……
このことだったの…!!?
こうする、って
キョウちゃんはあの時に決めてた、って言うの…!!??
そうしていいか、って。
こういう負け方してもいいか、って
私に確認してたっていうの…!!??
キョウちゃんはゴール手前で立ちすくんだまま、ただ前を向いて、その場でレースが終わるのを待っている。
さっきまではキョウちゃんの後ろを泳いでいた2位の選手が1位でゴールを決めた後、2位、3位と続々と選手がゴールを決めていく。
水を打ったように静かだった会場はポツリポツリと次第にざわつき始め、そのざわつきは
「…ふ、ふざけんな!!」
「なにやってんだ!藤堂!!!!」
「死ね!!
無様な試合するぐらいなら死んじまえ!!!」
火を点けたような激しい怒りにすり替わり、会場中を赤く赤く染め上げる。
心配になってふと前を見ると、水泳連盟のお偉方は激しい口論を続けている。
――怖い…
さっきまでの歓喜の渦はどこへやら。
罵声と嬌声の響き渡る、地獄絵図のような光景が目の前に巻き起こる。
異様な光景に包まれた、東京辰巳国際水泳場
最後の選手がゴールした瞬間
電光掲示板に光ったキョウちゃんの記録は
4 Kyoya Toudou DSQ
DSQ(disqualified)……
失格の3文字。
たった3秒前では誰もがキョウちゃんの勝利を確信していたはずだった。
彼は世界最速の記録と共に予選を通過するはずだったのに。
「バカヤロー!!!」
「ふざけんじゃねーよ!!」
「このクソヤロー!!
ふざけた試合するんじゃねぇよ!!!!」
キョウちゃんが記録した結果は
世界新記録でも
日本新記録でもなく、失格。
期待は怒りにすり替わり
興奮は狂気へと姿を変えて
今、彼は会場中の怒りを一身に浴びている。
――なんで…!!
なんで気づいてあげられなかったんだろう…!!
そのひどい罵声を聞きながら
私は手に爪が食い込むぐらい、ギュっと強く手を握りしめていた。