雨が見ていた~Painful love~
理由はなぜかはわからない。
わからないけれど…
あのロッカールームでのあの瞬間
キョウちゃんはこの結末を決意していたのかもしれない。
間違いない。
彼は最初からこうするつもりで泳いでたんだ……!!!!
「オマエにはがっかりだよ!藤堂!!」
「情けねぇ試合するくらいなら、予選に出てくんじゃねぇよ!」
全ての競技者がゴールを決め、キョウちゃんをはじめとする全ての選手たちが水から上がり、予選第3組の選手たちがその場を後にしようとしても……会場中の怒りはキョウちゃんただ一人に向けられていた。
「逃げる気か、藤堂!!」
「オマエにはがっかりだよ!!」
「このクソヤロー!!!!」
会場中の怒りが向けられる、その小さな切ない背中を見て胸の中にこみ上げてきたのは“後悔”の二文字。
どうして気づいてあげられなかったんだろう。
どうしてキョウちゃんの出していたシグナルに気づいてあげられなかったんだろう。
どうして…
キョウちゃんは大丈夫、だなんて思っちゃったりしたんだろう…!!!
キョウちゃんの姿が会場から消えても怒号と嬌声は止まることがなく
『お静かにお願いいたします!
観客席の皆様にお願い申し上げます。
どうかお静かに観戦なさいますよう、よろしくお願いいたします!』
協会側からは異例ともいえる、こんなアナウンスが何度も何度も流されていた。
呆然としながらキョウちゃんの消えたプールサイドを見つめていると
「これって…、マジで藤堂ヤバくないか…??」
隣の喜多川君は眉をしかめながら、私にこう語りかける。