雨が見ていた~Painful love~


「でも……。
予選の後って囲みの記者会見があるんじゃ……。」



よくTVで見る、その光景を思い出して社長に問いかけると



『……始まってるものは仕方ない。
おそらくは今、短いインタビューは受けてるはずだが、それ以上コトを大きくしたくないからな。余計なことはしゃべらないほうがいい。とりあえずはその場から離れるんだ。騒ぎを聞きつけてマスコミが寄り集まってきたら、今以上に面倒なことになる。』



電話の向こうからは車のクラクションと共に、社長の切羽詰まった声が聞こえてきた。




『いいか、美織。
今、車でそっちに向かってるから、あと10分で到着するはずだ。
裏口に車を付ける。そこに響弥を連れてこい!!』




それだけを叫ぶと
社長はブツンと電話を切った。





――ボーッとしてる場合じゃない…!!

キョウちゃんを守らなきゃ…!!





社長の声を聞いてスイッチの入った私。
バッグの中に携帯を乱暴に突っ込んで


「喜多川くん、もう少ししたら社長が来るんだって。悪いんだけど、しばらくここに待機してくれる!?」


お仕事モードでそう訴えると


「あ、あぁ、わかった。」


喜多川君は目を白黒させながらも、コクンコクンと頷いた。




バックを持って立ち上がって
コートを手に取る。


「社長からの伝言。
オマエは吉良の試合を見届けろ、以上!」


ビシッとバシッと
喜多川くんを指さしながら訴えると、私はすぐ後ろにいる拓真くんを振り返りもせず、声もかけずに、キョウちゃんに向かって走り出す。





キョウちゃん…
キョウちゃん…!!!!





そんな私を見て……


「やっぱりそうか…。」


拓真くんは小さく小さく、傷ついたように何かをポツリとつぶやいた――……



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