雨が見ていた~Painful love~


パパの勢いに乗せられるまま、ズカズカと廊下を歩いてキョウちゃんのいる控室を目指す。


郷田先生に言われた、突き当りのロッカールームの前に着き


「響弥いるか!!?」


パパがバァンと勢いよく扉を開けると



「う、うわっ!
慎に…美織!!?」



キョウちゃんはビクンと体を揺らし、ハトが豆鉄砲を食らったような顔をしてこちらを振り返る。




控室の中でキョウちゃんは長椅子に座っていた。
下半身は黒いジャージに身を包んではいるけれど、上半身は裸だった。


きっとあのレースの後、きちんと体を拭いていないんだろう。


濡れたままの髪からはぽたぽたと水滴が落ち、肩には小さな水滴が流れ落ちている。





レースが終わった後
どれくらいこうしていたんだろう。




もしかしたら、彼はずっとここで座り込んでいたのかもしれない。


ずっとこのまま、この状態のまま、ここに座り続けていたのかもしれない。




そう思わせるような雰囲気がこの部屋にはあった。






――キョウちゃん……






何を言えばいいんだろう
どう声をかければいいんだろう……


悩みながら
戸惑いながら
上手く言葉を出せずにいると




「響弥。緊急事態だ。
今すぐここを出るぞ。」


「…え…??」


「オマエの起こした騒ぎを聞きつけて、マスコミが押し寄せてる。この騒ぎはオマエにとってマイナスにしかならない。
後のことは俺がやるから、とりあえずオマエは美織と一緒に俺の家に逃げろ。」




そう言って。
パパはツカツカとカカトの音を響かせながら、キョウちゃんにニジリニジリと近づいていく。


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