雨が見ていた~Painful love~
その言葉を聞いて
『私に彼を返してよ!』
笑いながら
でも半分本気で私に訴えた綾音の一言を思い出して……私の心臓がキュウッと悲鳴を上げる。
「あやね……。」
どこまでもズルい私は気の利いた事ひとつ、ごめんなさいすら言えなくて、どうしたらいいのかわからずに、その一言だけを呟いて彼女の顔色を窺っていると
「ばかね。
そんな顔する暇があるなら、サッサと自分の気持ちと向き合いなさいな」
ムッとした顔をして
綾音は私のオデコをピンっと弾く。
「元カレの恋を援護射撃も応援する気も、恋敵のアンタの背中を押すつもりもないけどね?私、堂々巡りでウダウダしてるのって、するのも見るのも好きじゃないのよ。」
テーブルに肩肘をついたまま
ハァ~と呆れたように、私を見つめる綾音。
優しくて、美しい
非の打ちどころのない親友は、やっぱりどこまでもイイオンナ。
「私はねぇ。響弥くんのコトも好きだけど、やっぱりアンタも好きなのよ。」
「綾音……。」
そう言って
寂しそうに笑うカノジョに
『ごめんね??』
そう、言おうとした瞬間
「あ~、それはナシ!!」
「…え??」
「今更ゴメンはナシにしましょ。」
綾音は顔の前で手をブンブン振りながら、私の言葉を制止する。
そんな彼女に驚いて
きっと厳しい一言が飛び出すに違いないと、カラダを固くして待ち構えていると
「そういうのってイヤなのよ。
だって私が響弥くんを好きなのも、響弥くんがアンタを好きなのも、理性じゃなく本能なんだもの。人が人を好きになることって理屈じゃなくて本能でしょ??
だったら謝ること自体が変!友達なのに自分の恋心に遠慮するなんて、もっと変よ。」
綾音は予想外にも
こんな嬉しい言葉を私に送ってくれたのだった。
――私が同じ立場だったらこんなコト言えるだろうか。
私は心底そう思う。
ズルくて弱いライバルに
友達とはいえども、大好きなカレと別れる原因になった私に、こんなエールを送ることができるだろうか。