雨が見ていた~Painful love~



もちろん、あの行為は許されることではないし、私に消えない大きな傷を残した事件ではあったけれど……


思えばアレが全ての始まりだった。



あの事件がなかったら、私とキョウちゃんは幼なじみのまま、なにも変わらず毎日を過ごしてたと思う。




私は自分の中の隠れた恋心にも気づかず
キョウちゃんの気持ちすら気づかずに、ただ毎日を過ごしていたと思う。




逆を返せば、あの事件がなければ今の私たちはない。




全てはあの日から始まったんだ。




雨だけが見ていた
あの消えない、雨の日から私たちは始まった――……





そう思えば……
私は自分を可哀想だ、なんて思わない。


小さな頃からキョウちゃんに抱いていた、この感情の名前が恋だと知ったのは、あの夜があったからだもん。



恥ずかしくなんて……ない。




大丈夫。
私には誰よりも心強い家族と
誰よりも大切な友達がいる。


それに……キョウちゃんがいる。


世界中が敵に回ってしまっても
私には大切な人達がたくさんいる。




大丈夫。
私は強い子だもん。


強くてキレイなパパの娘で
どんな時でも優しい仁くんの妹だから、きっとどんなことがあっても大丈夫……。




私は仁くんの手を握りしめながら、会見場で黙りこくっているキョウちゃんを見つめる。



言ってもいいよ?
大丈夫だよ?


頑張れ。
頑張れ、キョウちゃん。




必死で送ったエールが届いたのかキョウちゃんはマイクをギュッと握りしめる。


そして意を決したように強い目をしてマスコミの方々にゆっくりと顔を上げる。




この事件の真実を
あの雨の日の一部始終を語りだす。



そう私が確信をした、その時



「俺、藤堂響弥は……
この一件の全責任を取り、今日をもって引退することを決意しました。」





キョウちゃんは
こんな予期せぬ言葉を語り始めた。


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