雨が見ていた~Painful love~
冷静なキョウちゃんに
混乱している、記者さん
キョウちゃんの予想だにしなかった行動に、思考回路がストップしているのは私だけではない。
会場にいるマスコミの人達までもが
ザワザワと落ち着きをなくし
さっきまでけたたましく鳴っていたシャッター音が水を打ったかのように静まり返る。
そんな異様な緊張感の中で
「この10年、俺にとって競泳は生きる意味であり生活の全てでした。大きな大会で優勝すれば嬉しかったし、日本新記録を打ち立てた日には最高に気分がよかった。」
キョウちゃんは、静かに静かに語りだす。
「俺の夢はオリンピックでの金メダル。その夢に向かって毎日努力を続けてきた10年でした。」
――キョウちゃん……
いつものワルガキな彼じゃなく
紳士のように落ち着いて一言一言を大切に話す、キョウちゃん。
「当たり前のようにプールに入って当たり前のように泳ぐ。そんな日常があの大会以降は出来なかった。練習がつらいと思うことはしょっちゅうで、水なんて見たくねぇ!そう思うことは少なくなかったハズなのに……。
いざ離れると泳ぎたくて泳ぎたくて、水の中に入りたくてたまらなくなりました。」
そう言ってキョウちゃんは少し恥ずかしそうに笑う。