雨が見ていた~Painful love~
そしてフゥと小さく息を吐くと
「泳ぎたくてたまらなくて。
水が恋しくてたまらなくて。
俺……我慢できなくて、昨日帝体大のプールに忍び込んだんです。」
――え、ええっ?!
この場でそれを言っちゃうの?!
思いがけないぶっちゃけトークに驚いたのは私だけじゃない。
「アイツ……バカ正直にもほどがあるだろ……!」
いつもは冷静な仁くんまでもが、頭を抱え込む始末。
へへへ、と屈託なく笑うキョウちゃんに
こめかみをピクピクひきつらせるパパ
ポカーンとしながら、その発言を聞いているマスコミの皆様。
そんな凍りついた状況の中で
「ま、これを限りに俺は引退するんで、ご愛敬ってことで許してください。
久しぶりの水は気持ちよかった。腐ってた自分が生き返る想いでした。やっぱり俺の生きる場所は陸の上じゃなく水の中なんだ……、そう思いました。」
キョウちゃんは妙に清々しい顔をして、そう答える。
その言葉を聞いて
我に返った記者の一人が
「じゃ、じゃあ、引退しなくてもいいじゃないですか!そんなに競泳を愛してらっしゃるのに藤堂選手が引退しなければならない、その意味がわかりません!!」
声を荒げて詰め寄ると
「俺……競泳が好きだから。
それでいいと思ったんです。」
キョウちゃんはそんな訳のわからない一言を口にする。
「……ど、どういうことですか??」
「俺は今まで記録を打ち立てるために、結果を残すために泳いでる、そう思ってました。
だけど……違ったんです。
俺はね?ただ好きなだけだったんです。……泳ぐことが。」
そう言って
キョウちゃんはフフっと笑う。