雨が見ていた~Painful love~
迷いのない
まっすぐな瞳
澄みきったきれいな目
『泳ぐことが好きなだけ』
キョウちゃんの発したシンプルで印象的なその言葉に、その場にいた人みんなが息をのむ。
「俺は記録より何よりも、単純に水の中が好きなんですよ。今まで俺を動かしていた原動力は“競泳が好き”ただそれだけ。
それだけの気持ちで競泳に向かってたんだ、って気づいたら……呆れるほど楽になりました。」
そんな言葉を爽やかに口にするキョウちゃんに、会場中が注目する。
弁明を聞きたい
謝罪の言葉を聞きたい
ことの真相のあらましを知りたい
そう思って
どちらかといえば下世話な気持ちを抱いて、この場に現れたであろう記者の方々は、茫然とした表情でキョウちゃんを見つめている。
「俺は競泳が好きです。
何よりも大切です。
選手としての自分よりも、その気持ちの方が強いんですよ。地位とか名声とか、そういうモノの為に俺は泳いでるワケじゃない。好きだから泳いでる。ただそれだけだったんです。
そんな自分に気づいたら……怖いものなんてないですよ。」
そう言って
キョウちゃんはケラケラと笑いだす。
そして見たこともないような
柔らかな笑顔を振りまきながら、キョウちゃんはこう言った。
「引退したからって言って、俺は競泳を永遠に失うわけじゃない。泳ごうと思えばいつでも泳げる。それに…かっこよくないですか??」
「……??」
「選手でも何でもない。
強化選手でも何でもない。
そこらへんにいるただの男が、実は…世界最速の男って。」
あきれるぐらい軽やかで
迷いのないその笑顔に、周りの空気が一気に変わる。