雨が見ていた~Painful love~


次のステージ

アスリート・藤堂響弥としての人生ではなく
ただの人・藤堂響弥としての人生



それはキョウちゃんがウチの会社に所属した時から、パパが口酸っぱくして言っていたコト。



『響弥の選手寿命はあと10年あるかないかだろう。だけど、その後の時間の方が圧倒的に長いんだ。大事なのはそこなんだよ、美織。第二の人生をどう歩みたいのか、そこを一緒に考えてやろう。』



仁くんの言葉を聞いて
パパが昔、そう言っていたことを思いだす。





そうか……
第二の人生を探す作業
それが少しだけ早まっただけだ、と思えばいいんだ…。





会見場では記者の人の質問に
キョウちゃんがゆっくりと答えている。



これからどうするのか


とか


本当に引退するのか


とか



どの人も似たり寄ったりの質問をしている。




その質問に


「引退はします。でも先のことはわかりません。
明日のことだってわかんねーのに、先のことなんてもっとわかりません。ただ……毎日泳げる場所にいたいなー、とは思いますけどね。」


キョウちゃんは飄々と答えている。





難しい顔をしていたパパの顔が緩んで
会場の空気も柔らかになってきたな…、そう思っていた時




「藤堂選手と吉良選手は同じ平泳ぎの選手として、よきライバル関係だったとお伺いしています。藤堂選手から吉良選手に伝えたい言葉って何かおありですか??」




空気を読まない、
そんな記者の一言にキョウちゃんとパパの顔がピクンとひきつる。




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