雨が見ていた~Painful love~


そんなことを思いながら
飄々と記者の質問をかわすキョウちゃんを見つめていると



「今、吐き出すのは簡単だ。
でも…ここで言わない響弥の勝ちだ。」




そう言って
仁くんはニッコリと笑う。





「見てろ?美織。」


「…え??」


「今すぐは無理でも、響弥はもう一度、必ずあの舞台に戻ってくるよ。」





ど、どういうこと!!?


エスパーみたいに
千里眼を持っている仙人のように
こんなことを言い切る仁くんの顔をギョッとした顔をして見つめていると





「…お偉いさんがどう言おうと、吉良光太郎がどんな策略を巡らせようと、響弥は必ず戻ってくる。響弥の姿を待ちわびる、たくさんの人の声に乗って…ね??」






仁くんは確信を持った目で
こんなことを言い始める。





――えぇ~??

引退を表明したこの場でそんなコト言っちゃうの??






ちょっぴり空気を読んでない仁くんの言葉に呆れながらも


「うん…。
だといいなぁ…。」


私は心からそうつぶやく。






別に有名な選手じゃなくてもいい
誰より速い選手じゃなくてもいい
キョウちゃんがキョウちゃんであればそれでいいんだけど…。


もう一度だけ見れるといいな。


あの大きな舞台で水しぶきを上げながら、気持ちよさそうに泳ぐ彼の姿を見てみたい。




いつか…
いつか来るといいな。
そんな素敵な日が――……


もう一度
もう一度だけでいいから、そんな日が来るといいな。



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