雨が見ていた~Painful love~
「まぁまぁ。
可愛い子には旅をさせろって言うでしょ?
それにライオンは我が子を谷に突き落とすって言うし…これも愛情だよ、愛情。」
「うるさい!!
俺はこんな愛情は欲しくねぇ!!」
満足そうに微笑むパパに
心底悔しそうに、涙目で悔しがるキョウちゃん。
――ううーーん。
きっとキョウちゃんはパパに一生勝てないんだろうなぁ……。
そんなことを思いながら、二人のドタバタ劇を見守っていると
「とりあえず…ボクはこれで失礼しますね。」
安心したような笑顔を浮かべて、カーターコーチはドアノブに手をかける。
そしてキョウちゃんの顔を見つめると
「Kyouya.
二週間後、楽しみにしてますからね。」
そう言って、爽やかな笑顔を残してカーターコーチはSKプロダクションを後にした。
後から聞いた話だけれど…
カーターコーチにコンタクトを取ったのは他の誰でもない、キョウちゃんの恩師・郷田先生。
世界大会で何度かキョウちゃんの泳ぎを見たことがあるカーターコーチはキョウちゃんの引退をとても残念に思っていて…、日本で泳ぐ場所がないならボクがアメリカで預かる、と言うことで話は落ち着いたらしい。
そして郷田先生はすぐさまパパに連絡。
留学に必要な書類に手続、それらの全てをパパに託したらしい。
『ま、俺は響弥のファンの一人だし??なんだかんだで俺って響弥に甘いからねぇ。』
パパはタバコをくゆらせながら
そんな一言を私に呟く。
きっとキョウちゃんの引退を歯がゆく思っていたのは、郷田先生だけではなくて、パパもだったのかなぁ??
だから、なりふり構わずにあんな手段を取ったのかもしれない。
……今となってはそう思う。