雨が見ていた~Painful love~


そう……思っていたのに……。



「ただいま戻りました。」



撮影と取材を終えた後、兄を連れて事務所の社長室の扉を開けた瞬間。




バサバサバサ!!




私は持っていた荷物を全て落とし、息をするのも忘れて、父の前にいる人物に眼を見張る。




「……キョウ……ちゃん…………。」




黒い革張りのソファーに腰かけて、父の前に座っていたのは“あの”藤堂響弥。



心底驚いている私とは裏腹に、キョウちゃんは冷静な顔をして私をしっかり睨みつける。




――なんで?!

どうしてここにキョウちゃんがいるの?!




驚いて目を真ん丸にしたまま、彼の顔を見つめていると


「あれ?響弥??」


「オッス、久しぶり。仁。」


私の兄、桐谷仁が私の背中越しに彼に声をかける。





嬉しそうにキョウちゃんに近づく兄に、その場で固まって動けなくなってしまった、私。



逃げたい

逃げたい

逃げ出したい



だけど足の裏に根が生えたように、身動きひとつ、瞬きひとつ出来なくなってしまった私。



そんな私に向かって、父は無情にもこんな言葉を私にかけた。



「これから響弥もうちの事務所がプロモートすることになった。とりあえず正式なマネージャーが決まるまでは、美織。お前が響弥のマネージャーとして動いてくれ。」

< 59 / 545 >

この作品をシェア

pagetop