雨が見ていた~Painful love~
そう……思っていたのに……。
「ただいま戻りました。」
撮影と取材を終えた後、兄を連れて事務所の社長室の扉を開けた瞬間。
バサバサバサ!!
私は持っていた荷物を全て落とし、息をするのも忘れて、父の前にいる人物に眼を見張る。
「……キョウ……ちゃん…………。」
黒い革張りのソファーに腰かけて、父の前に座っていたのは“あの”藤堂響弥。
心底驚いている私とは裏腹に、キョウちゃんは冷静な顔をして私をしっかり睨みつける。
――なんで?!
どうしてここにキョウちゃんがいるの?!
驚いて目を真ん丸にしたまま、彼の顔を見つめていると
「あれ?響弥??」
「オッス、久しぶり。仁。」
私の兄、桐谷仁が私の背中越しに彼に声をかける。
嬉しそうにキョウちゃんに近づく兄に、その場で固まって動けなくなってしまった、私。
逃げたい
逃げたい
逃げ出したい
だけど足の裏に根が生えたように、身動きひとつ、瞬きひとつ出来なくなってしまった私。
そんな私に向かって、父は無情にもこんな言葉を私にかけた。
「これから響弥もうちの事務所がプロモートすることになった。とりあえず正式なマネージャーが決まるまでは、美織。お前が響弥のマネージャーとして動いてくれ。」