雨が見ていた~Painful love~
ずぶ濡れでぷんぷん怒りながら、歩いている美織の背中が見えなくなったのを確認すると、俺はポケットの中のケータイを取り出して、ある男に電話をする。
その相手は……
「もしもし。
どうした?響弥。」
「あぁ、仁か?
ちょっと頼みがあって電話したんだけど、今大丈夫か??」
俺の幼なじみ
美織の兄貴の桐谷仁。
仁は昔から俺のいい相談相手で、よき兄貴。カンがいいのだけが難点だけど、いざという時には頼りになる存在だ。
「お前のカワイイ妹が“歩いて帰る!!”って言い張ってさー。傘も差さずにずぶ濡れんなって、沼地のカッパのように街をさまよってるんだよ。
悪いんだけど迎えに行ってやってくんねぇ??」
そう伝えると
「…ハァ…。
どうせお前がくだんないこと言って怒らせたんだろ。」
電話の向こうで仁は盛大にため息を吐く。
「怒らせた…っちゃ怒らせたのかな。
俺としたら本音を言っただけだけど。」
「…お前の本音を…ね。
想像しただけでゾッとするな。」
呆れたように仁は、そうつぶやく。
「ま、とにかく迎えに行ってやってくんねぇ?あのままだと確実に変質者だから。」
そう頼むと
「…了解。
とりあえず、何にもなかったかのように電話してみるよ。」
仁は快く俺の頼みを了承してくれた。