NY恋物語
Ⅰ
薄暗い機内に
低く流れたアナウンスが
到着まであとわずかだと告げた。
飛行機の狭い座席で過す長時間は
回数を重ねれば慣れはするが
快適とは言えない。
微かに痛みだした
背中と腰を伸ばそうと
両肘を動かせば
隣席で転寝をしている男性の腕に
当たりそうになって
慌てて身を竦めた。
やれやれ・・・
こんな思いをしなくては会えない
愛しいあの人の住む街は
あまりにも……遠すぎる。
Big Apple pupul town
ニューヨーク!
地球上で一番エキサイティングで
エネルギッシュな街が
今、眼下に広がっている。
「ああ!いいな。今日のNYは晴れますよ」
いつの間に起き出したのか
隣の席の男性が
上げたシェードから差し込む光に
目を細め微笑みながら
よかったですね!と私に言った。
「本当ですか?嬉しい」
「到着からこれなら
良い事がありそうだ」
「そうですか?」
「旅先での好天に恵まれると
幸先が良いような気がするんです。
こんなゲン担ぎは年寄りだと笑われてしまいそうですが」
ハハハ、と嘲笑とも
苦笑いとも取れない笑みを浮かべて
ポリポリと頭を掻くこの男性は
まだ青年と呼んだほうが
しっくりくるような爽やかさと
人当たりの良さを感じさせた。
「笑うだなんてとんでもない。
私もそういうゲンって担ぐタイプです。
もう年ですしね」
「何を仰いますか!お若くて
とても可愛いですよ!って
うわ俺、いきなり可愛いとか…
何言ってんだろ」
あわあわと焦りながら
懸命に私を気遣ってくれる。
そんな貴方の方が
よほど可愛い、なんて言ったら
やはり男性には失礼だろうか。
「ありがとうございます。
嬉しいですよ?
可愛いって言ってもらえるのは。
でもこの長時間の窮屈は
結構堪えますからね。
やっぱり若くないです」
「それは年齢問わず、ですよ。
子どもだって堪えます」
「子どもは窮屈というより退屈が堪えそう」
「あ~~それはそうですね」
フライトの間、ほとんど言葉など
交わすことがなかったのに
こんな風に気安く笑いあえるのは
無事に到着したことの安心感と
長い拘束が終ることの
解放感からかもしれない。
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