NY恋物語
壁や冷蔵庫には
秀明のショットやサーブのスナップが
何枚も貼られ その中に点々と
紅葉の中や雪山での
ヨーコと秀明のツーショットが混じる。
スポーツ飲料やプロティン飲料のボトルや缶
サプリメントの瓶の中に混じる緑茶の筒。
これが秀明のために備えてあると思っても
間違いではないだろう。
ここはヨーコの住いのはずなのに
其処彼処から秀明の気配がする。
もしかしたら……
本当はそんな事は思いたくはない。
けれど 女の感というやつが
勝手に作用してしまう。
寝室には秀明の気配だけでなく
彼自身の痕跡があるのかもしれない、と。
女が一人で眠るには広すぎるベッドに
無造作に広げられた
女性用ではないパジャマやガウン……
本当は二人はもう
ビジネスパートナーだけではなく
男と女としても……
嫌だ!そんなのイヤ!ウソよ!!
考えたくないのに
秀明を疑うような事はしたくないのに
裏腹な妄想ばかりがふくらんでいく。
それが杞憂であって欲しいと
祈るような気持ちで
私は寝室のドアノブに手をかけた。
でもドアノブは回らなかった。
そうか……
やっぱりそうなんだ。
だからヨーコは 寝室には
入ってはいけないと念を押して
ご丁寧にカギまでかけて出て行ったのだ。
そう思ったら居ても立ってもいられなくて
私は部屋を飛び出し階段を駆け下りていた。