NY恋物語
冬のニューヨークの風は
こんなに冷たいものだっただろうか。
ここブルックリン・ハイツ・プロムナードから見える
対岸の街が美しくきらめき始めていた。
その輝きは淡く暮れ始めた
冬の重い空に一段と映える。
「きれい・・・」
観るたびにしみじみと呟いてしまう。
初めてNYを訪れた時に
この夜景に魅入られてしまって以来
この街へ来た時は必ず訪れる
お気に入りの場所だ。
「このままきらめく灯のひとつになって
あの景色に吸い込まれてしまいたい」
陶酔したまま そう呟くと
「いくら好きでもそれは困るな」と
呆れたように笑った秀明が
私を背中から包み込むように
抱きしめてくれた。
そんな一時が この上なく幸せだった。
今だって…
本当なら秀明の腕に抱かれながら
見ているはずだったのに。
ここまでに辿った場所も全部
秀明と二人で歩くはずだったのに。
ロックフェラー・センターも、5番街も。
どうして私は一人でいるんだろう…
「…綾瀬さん?」
まさかNYの真ん中で
かけられる筈のない日本語に振り返れば
そこには見覚えのあるハッピースマイル。
「鳳さん?!」