NY恋物語
少し歩いたところで見つけた
小さなカフェの
小さなテーブルを挟んで
俺達は座った。
ほんの少し乗り出せば
額と額が触れてしまいそうな距離に
胸が躍るのを抑えきれない。
莉奈さんの様子を慮れば
不謹慎かもしれないけれど・・・
それでも俺が勝手にオーダーした
ホットチョコレートを一口啜り
ほぅとため息を落とした彼女は
少し落ち着いたように見えた。
「ごめんなさい」
「謝らないで。
貴女は何も悪くない」
「・・・ありがとう」
「いえいえ」
もう一口 チョコレートを啜った
莉奈さんは、温かい・・・と
カップを両手で包み
かすかに微笑んだ。
それをを見て俺は
多少 気が引けはしたけれど
思い切って彼女の状況と事情を
問いただした。
もしも犯罪になるような事に
遭遇していたなら
このままという訳には行かない。
衣服の乱れや汚れは無い様だから
暴行や乱暴なんて
最悪の事態ではないと
推測はできたけれど
本人に確認し
NOの返事をもらった時は
心底ほっとした。
「なら、スリとか盗難に
あったとか?」
「違うの」
「パスポートは?」
「あります。大丈夫」
「よかった~!」
「…ごめんなさい。
心配をおかけしてしまって」
「いいんですよ。
何事もなかったのならそれが一番」
旅先の困ったトラブルでは
なさそうな様子に
とりあえず安堵はしたものの
それ以外に感極まって
泣き出してしまう出来事といえば
何だろうと
思考をフル回転させても
残念ながら手がかり一つ
浮かばない。
そのくらい彼女についての
個人的な情報がない間柄なのが
俺と莉奈さんとの現実だった。