NY恋物語
「これ 俺の名刺です。
裏に書いたのはNYでの滞在先です。
ああ、表の携帯№は海外でも使えますので
何かあったらいつでも連絡ください」
「ありがとう」
「えっと…じゃぁ今度こそ本当に送りますよ」
「いえ。ここで…」
「ここで、ですか?!」
「はい」
「一人で大丈夫かなぁ?時間も時間だし…」
「大丈夫です。タクシーを使いますから」
うーん、と納得のいかなそうな顔で
それでも 仕方ないか…と小さく呟いた鳳は
「くれぐれも気をつけてくださいね」と手を上げ
空港で見たのと同じように颯爽と踵を返した。
見送る背中に胸が小さく痛んだのは
ただの感傷だけ…だろうか。
その時だった。
立ち止まり振り返った鳳が
「莉奈さん!」と叫んで駆け寄ってきた。
刹那、ふわりと揺れた空気ごと
私は彼に抱きしめられた。
「お、鳳さん?!」
「すみません。でも もう少しだけ……
3分でいい。このままで居てください」
「あ、あの…」
「お願いです。ダメだって言わないで」
やわらかくすっぽりと包むように
私を抱きしめる彼の腕の力が少しだけ強くなった。
拒もうと思えば拒めたし、本気で嫌だと抗えば
彼は私を放してくれただろう。
でも拒めないと思った。
鳳の遠慮がちな抱擁に
私への溢れるほどの気遣いと
彼の誠意を感じたからだ。
私は答える代わりに鳳の胸に
強張りを解いた身体を預けた。
はぁ、と切なく小さく吐いた彼の息が
私の耳元を掠めた。