NY恋物語
…そうよね。
きっとすごく心配させちゃったのよ、ね?
「ごめんなさい」
「それはヨーコに言ってやってくれ」
「どうして?」
なぜ彼女に謝罪しなくてはならないのか。
大体、こんな事になったのも彼女が原因だ。
「ついさっきまでお前の事を
街中血眼になって探し回ってくれていた」
「嘘…」
「嘘じゃない。今、電話で見つけたと伝えたら
心底安心していた」
何度電話をしても出ない私を心配して
様子を見に来たのも彼女で
私がメモ一つ残さずに部屋を飛び出したのは
少々キツイ事を言った自分のせいかもしれないからと
責任を感じて必死に探し回ってくれたらしい。
「そう…だったの」
で、こんなところで
のんびりグラスを傾けてるアナタは?と
半ば嫌味に言おうとしたのを思いとどまってよかった。
聞けば、ここに秀明が居たのは
やはり彼も私が立ち寄りそうな場所を散々捜した後
最後の心当たりがこの店だったからだと言う。
ここで待っていれば会えると思ったらしい。
いつもNYでの一日の最後を過すこの店に
きっと寄るはずだから、と。
読まれてるなぁ、私。
でもそれがちょっと嬉しいと思う、なんて
浮かれてる場合じゃない。
今夜、秀明が行くはずだったパーティはお遊びじゃない。
仕事なのだ。
それを中座させるというとんでもない迷惑をかけ
おまけにこんなにも心配をさせてしまったのは
本当に申し訳ないと思った。
やっぱり…
私は秀明にふさわしくないのかもしれないと
また暗い気持ちが小さく湧き上がってきた。
「それと、無事に見つかったのは良かったけど
俺より先に莉奈を見つけられなかったのは
悔しい、だそうだ」
携帯を掲げた秀明が苦笑した。
「悔しいって…」
「彼女は生粋のニューヨーカーだからな。
街を隅々まで知る地元っ子としての
面子ってヤツじゃないのか?」
「やだ。ヨーコさん、子供みたい」
「…だな」
クスクスと顔を見合わせて笑った。