NY恋物語

「じゃ、お気をつけて」


自分のスーツケースは
早々に出てきたのに
私の荷物が出てくるまで
一緒に待ってくれた彼は
遅れて出てきた私のスーツケースを
ターンテーブルから軽々と下し
自分のスーツケースと一緒に
ゲートの手前まで運んでくれた。


「はい。色々と
ありがとうございました。えっと…」

「あぁ、俺、鳳といいます。鳳和真」

「では鳳さん。改めて、メリークリスマス」

「じゃあ俺も聞いていいですか?お名前」

「綾川です。綾川莉奈」

「それじゃ 綾川さん!」


さっと差し出された彼の手に
私はそっと自分のそれを重ねた。


「メリークリスマス。良いバカンスを!」

「ありがとうございます。
鳳さんは…よいお仕事を、ですね?」


彼は輸入家具を扱う会社のバイヤーで
今回は買い付けに来たのだと
さっき聞いたところだ。


「せっかくのクリスマスなのに
仕事だなんて侘しいですよね、俺」

「そんな事はありません。
お仕事が多忙なのは
男性にとって「華」ですから」

「うわぁ、嬉しいなあ。
女性にそういってもらえるのは」


破顔一笑。


それを見た人から
自然と笑顔を引き出して
幸せな気持ちを呼び覚ましてくれる…
そんな笑顔にドキリと胸が跳ねた。
こんなに素敵に笑う男性を
私は知らない。
もしも秀明に出会う前に
この人に出会っていたら
きっと恋をしていただろう。


「好きなんですね、お仕事」

「はい。最初は言葉とか
常識の違いとか
色々苦労はしましたが…
今はとても面白いです」


胸を張る彼が
眩しく頼もしく見えた。
どこまでも好青年だ。


「頑張ってくださいね」


「ありがとう!」と
小さく手をあげ踵を返し
コートの裾をはためかせる
背の高い颯爽とした姿は
周りの視線を集めながら
歩み去っていった。
一介のビジネスマンにしておくには
惜しい人だと
しばし見惚れてしまった。


わ、いけない。私も急がなきゃ!


周りを見渡せば 同じ便の乗客は
もうほとんど残っていなかった。
ターンテーブルで
未だ回っている荷物も
ほんの数個だ。
ゲートの向こうで待っている秀明が
痺れを切らしているかもしれない。


私はスーツケースを押しながら
小走りでゲートを抜けた。

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