NY恋物語
長く蕩けてしまいそうなキスの後で
何を思ったのか
突然「踊ろう」と言う秀明に
腰を抱かれ手を取られて
進み出たフロアの真ん中は
居心地が悪かった。
「ちょっと!私、踊れないわよ?!」
「俺もだ」
は?
「じゃぁ、どうして?!」
「ん?何となく…そんな気分になったから」
何となくってなに?
気分ってなに?
私の知る秀明は、酒に酔う事はあっても
雰囲気に酔う事はない人だったはず。
この人は本当に秀明なのだろうか…と
またしても同じ疑問が浮かぶ。
「やめようよ…。恥かしいってば」
「いいから。適当に揺れていろ」
適当にと言われたって困る。
おまけに目立つし
恥かしくて居た堪れない。
穴があったら入りたいどころか
大穴を掘って潜りたい。
すがるような思いで秀明に訴えた。
「ねぇ、秀明…もぅホントにやめようよ?」
お願い、とまさにヒーローに救いを求める
ヒロインの眼差しで見上げても
そんな私のSOSなどお構いなしの
蕩けてしまいそうな
甘やかな視線が返されるだけで
願いを叶えてはもらえそうになかった。
本当に今夜の秀明はどうかしている。
こんな事、今までした事がなかったのに。