NY恋物語
「ね?でも、どうして2冊?」
私が秀明に欲しかったと話したのは
たしか「アリス」の話の仕かけ絵本だったはず。
ダイナソーの方は、あまりにリアルで
迫力がありすぎて
手元に置こうとまでは思わなかった。
「備えあればってヤツだ」
「備え?」
「ああ、男でも女でもいいように」
「は??」
男でも女でもって、どういう事?
意味がわからない。
「分からないか?」
「全然」
やれやれ、と眉を軽く八の字に寄せた秀明は
私の左手を取り
「この先、どちらが産まれてきてもいいように」と
美しい輝きを放つ輪を薬指に嵌めた。
輪の真ん中には光を集めて一際明るく輝く石が
嵌めこまれている。
産まれてくるって…
薬指の指輪って…
「秀明?!」
「一緒に暮らそう。もう離れていたくない」
何か起こった時
守れなかった事を後悔したくないんだ、と
搾り出すように呟いた秀明が
また深く私を抱きしめた。
私の胸は切なさで一杯になった。
私だって後悔したくない。
どんな瞬間でも秀明の側にいたい。
「秀明」
「ん?」
「一生涯、私を守る
私だけのヒーローになると誓いますか?」
「誓います」
背筋を伸ばし胸に手を当てた
宣誓のポーズで真摯に答え
「エゴイストな悪の権化は昨日限りで返上だ」と
微笑んだ秀明の誓いのキスは
優しく穏やかに私を満たしていく。
白く明けていく空の眩い陽射しが
部屋を明るく照らし温めていくように
静かに少しずつゆっくりと。
絡めた指のリングが
カーテンの隙間から差し込んできた
朝陽を集めて瞬くように煌いた。
今日のNYもきっと晴れる。
end