愛を叫んで地に堕ちて〈全イラスト41枚つき恋愛ホラー〉



「あなた! 血が出てますよ!?」

 ベビーカーを押した若い母親に声をかけられて、彼は左手を軽く上げた。

 年は、十代後半からせいぜい二十代ぐらいか。

 少年の面影を残した、成人して間もない青年らしく、線が細い。

 整った顔の持ち主にぴったりな自分の白い手首から、確かに。

 尋常ではないほどの大量の血液が、ぼたぼたと流れているのを見て、彼は笑った。

「ああ、コレ?
 俺、今、自殺の最中なんですが。
 死ぬ前に一度、会いたい人を見つけたので、ここまで歩いて来たんです」

「自殺の最中ですって!?」

 その、現実離れした返答と、かすれ気味でもなお。

 キレイな声に、母親は、ぼうっとなりかけ、慌てて首を振る。

 今、自殺の真っ最中だなんて!

 ……冗談にもほどがある、というものだった。





 季節は、夏。

 彼らが出会った、緑園都市の外れでは、蝉(せみ)が一斉に鳴いていた。
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